「適当に座って」


課長の部屋に通された後、そう言われて1人にされた。
オフィスの最寄駅から3駅ほどで着く場所にある公団マンションの一室。

家賃の割に広くて立地もいいんだ…と課長が言ってた通りで、1DK以外にもサービスルームまで付いてる。


「角部屋の特典みたいなもんかな」


高倍率の賃貸マンションを引き当てるなんて、ロトで高額が当たるのと同じくらいにラッキーなんじゃないのか。

自分の部屋よりも一回りは広いと思える部屋の中に佇み、課長が私の部屋でやってた様に、ベッドの上に腰掛けてみようかとも考えたけど…。



(ダメダメ。そんなことしたら図々しいと思われる)


そもそも今、これでもか…っていうくらいに心臓が動いてるのに、これ以上心拍数の跳ね上がる様な行動を起こせない。


課長が来るまで立っておこう。
その方が気が楽だ。


じっとしてたら部屋の様子が気になった。
立ったまま視線を走らせ、内装やインテリアを見回す。


男性の一人暮らしの部屋に入ったのは大学時代以来。

大人らしくモノトーンカラーで纏められた部屋の中は落ち着いた雰囲気で、スタイリッシュな感じで素敵だった。


課長は犬好きらしく、カレンダーには大型犬の写真が付いたものをぶら下げてる。

ベッドヘッドの上に置いてあるのも犬の置物で、それはビーグルの親子だった。



「クスッ…」