音が聞こえる。
車の走る音。
信号機の音。
誰かが地面を強く蹴る音。
風の音。
たくさんの喋り声とセミの声。
同時に鼻の奥も刺激された。
ケーキっぽい香りがした。
ピンとくるその匂いに私が今いる場所を特定できた気がした。
ゆっくり目を開く。
辺りは暗かった。
横を向けば光と車が数台行き交っていたから、ここは小さな路地なんだと思った。
「ほんとに、来ちゃったよ……!」
足元をみて自分に影があることを確認して、それから壁に触れてみた。
触れてる!
感じる!
嬉しくて何度も壁を叩いた。
この世界に存在してるって実感できた瞬間だったから。



