「それは、ここが天国だからよ」
首を傾けて私を見つめ返すゼテルアさん。
そっとハンカチを差し出してくるけど、
それすら目に入らなくて
ただ青い瞳を見つめ返す。
「て、んごく?」
「そうよ」
「でも、これは夢の中の『天国』ですよね?」
目元を手の甲で擦った。涙はいつの間にか引っ込んでいた。
「あゆなん、ちゃんと聞いて。ここは夢の中じゃないの」
「ウソだ」
「ウソじゃないわ」
ゆっくり首を振るゼテルアさんに笑ってみせた。
「ゼテルアさん、天国っていう場所は知ってます?」
「ええ、もちろん」
「死んだ人が住む世界ですよ?」
「そうね」
縦に頷く人は変わらない笑みを浮かべていて、それとなくどこか困ったようにもみえる。
けど私にはこの表情が憎く感じさせた。
人が必死になって説明しようとしているのに、笑顔を向けてくるなんて、とても失礼だ。
「私は息だってしてるし、感覚だってちゃんとはっきり分かってるんですよ!」
腕を突き出して肉を強くつまんで見せた。痛みはすぐに感じることが出来た。
ほら。
「ちゃんと感じるんですよ。生きてるんです!」



