近い記憶から引き戻されたのは、とうに渡りきって、激しく腕を揺らされてから。
少し顔を下に傾けると、無言だけど何かを必死に伝えようとしている歩未がいた。
そして人差し指が向けられている方向に私の視線が向かう。
それと同時に遠くから、でも近くで高い声と高いブレーキ音がそこら中に響き渡った。
「あれ、やばくね!?」
誰かが焦った声を上げる。
「はやくっみんな逃げてっ!!」
誰かが叫ぶ。
「あゆなっ!何してんのッはやくッ!!」
焦りの声をあげた歩未が私の腕を引っ張って歩き出した。
それなのに私の足は止まったままで、やっと動いた足は真逆な方向へと一歩踏み出していた。



