初めてだった。
知らない人に、名前を教えるなんて。


「コイズ」

小さな岩島に座って、足を海水に浸していたとき。
張りのある男の子の声に呼ばれた。

振り向くと、神様の作り物みたいに綺麗な少年がこちらに歩いてくる。

────俺は、泡海 吟多。

名乗るとき、彼はひどく儚く見えた。
まるで、言葉を返さなければ消えてしまいそうなほどに。

初めて海の中で会ったときもそうだった。
『泡になって消えちゃうから』と言ったときも。
苦しそうで、何かを求めているようで。
砂の城のような脆さを感じた。