かすかに聞こえる音のほうへ歩いていく。
さく、さく、と砂を踏む音とともに足が沈む。

浅瀬にある小さな岩。
そこに座る人影。

靴を片手に持ち、水の中を歩く。

優しくなでるような歌声が流れていた。
さざなみの音を背景に、すべてを洗い流し清めるような空気が 辺りを包む。

ゆらり、ゆらり。
揺りかごのように赤んぼうを抱き、あやす女性の姿が思い浮かぶ。
かすかに動く唇が、ささやくように子守唄を紡ぐ。

一瞬ぼやけた視界の中。
黒髪を風になびかせて振り向いた彼女が驚いたように目を見張る。

俺は 自分の乾いた頬に、ひとすじ涙がつたっていくのが分かった。