「吟多くんまたねぇ~」
ゆるく巻いた、肩よりやや長めの髪。
蜂蜜のように甘く可愛い声。
こうさぎみたいで、男から結構人気がある娘だ。
頬を林檎のように紅潮させて。
蝶のようにひらひら手を振り返す仕草はなるほど、"愛らしい"と形容できる。
でも……。
「……あの子とも、だめだったな」
その子がうきうきした足取りで遠ざかっていくのを見届けた後、俺はぽつんとつぶやいた。
────満たされない。
心臓の辺りをグッと掴む。
夏休みに入った今。
あの子を知ってから、あの感じを覚えてから、俺は何度他の女子とキスを繰り返しても 空っぽになっていた。
まるで底の抜けたビンに水を注いでいるように。
……あの子だと、あんなに満たされたのに。
……会いたい……。


