「嘘つかなくても分かるって」
「俺、結婚してないよ。彼女にフラれたばっかりだもん」
あまり触れるべきでないところに
触れさせてしまったと分かってから沈黙が続いた。
彼女と別れたばかりで
学校の生徒にこんなことしていいとは思えない。
思えないけど……
「欲求不満?」
「それでうんって言ったら解雇されるけど?」
ううう。
「最っ悪。生徒に欲求不満の相手? 十分、解雇じゃん! 私、警察いってくる」
いくら彼女にフラれたからと言っても
その腹いせに会ったばかりの生徒にこんなこと
していいわけがない。
今日はやなこと続きだ。
寧々たちには色々されるし、
それで泣いてたらセクハラ教師が来るし。
もうさっさと帰ろう。
帰んないともっと色々起きそう。
「ちょ、ちょっと待ってって」
肩が分厚くて力強い手にぐっと引かれた。
いくら頑張っても女子の上、年下となれば、
成人男性の力に勝てることはほぼほぼない。
「何? セクハラの上に言い訳?」
振り返ってパサついた髪をはらうと
両手を合わせて70度くらいに体を曲げている。
やっぱり、言い訳らしい。
「はい、言い訳です」
しらっと答える教師に
イライラするより、呆れてきた。
「どんな言い訳するの? セクハラしたのに」
「セクハラ、セクハラってやめてくださいよ。僕、その単語好きじゃないんです。商談、してください」
「はあ? セクハラって単語が嫌いならそれに当たることするなよ、というかこの場合商談って言わなくない?」
目の前の教師は目元を和らげる。
「どちらにも利益があればいいと思いません?」
「なっ……じゃあ結局、欲求不満じゃん! 利益って、まさかこれからも続けるってこと? 生徒へのセクハラを?」
無難な頬を目指して手を挙げた。
こんなにバカな人は見たことない。
頬でも思いっきり叩かないことには、
気がすまない。
「え?」


