「したかったから、ですかね」 その目は悲しそうなのに 後悔の念は宿していなかった。 ということは、やったことを後悔してなくて。 結婚してるだろう大人相手に しかも、気まぐれに こんなにドキドキした私の事は どうしてくれるの? 「結婚してるのにこんなこと、していいとでも思ってるわけ?」 ネクタイを引っ張りあげて目線を強制的に合わせる。 こんなこと……合意じゃないのに。 「僕、結婚してないです」 何秒か沈黙が続いた。 「嘘だ」 「本当です」 「いいや、嘘だ」 「嘘じゃないです」