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雑音みたいな話し声が、突然、意識のなかに入ってきた。
低い声でボソボソと聞こえてくる声は同じ?
そのうえ、なんか体がゆらゆらする。この揺れって、なんだろう。

そんなことを取り散らかった頭で考えてるうちに、また尖った声が聞こえてくる。
これは、颯哉の声だ。
またなにか口の悪いことを言ってるのかと思うと、ムカッとして『颯哉、うっさい』と、文句をたれてやった。

遠くのほうで『大丈夫?』と尋ねられたから、『大丈夫じゃないってば』と答えた。

酩酊した意識のなかで『ごめん』という声がした気がする。

何かを答えたかったけど、口が重たくて動かなかった。



突然、はっきりと意識が戻ったとき、私は自分のベッドの上で寝ていた。カーテンの隙間から朝日が差し込んで、一本の光の筋が浮かんでいる。

潤哉さんにデートをキャンセルされた……夢、みてた? 

体を起こそうとすると、脳天に突き抜けるような痛みが走る。

「痛っ」

とっさに頭を押さえ、自分の着ているものがパジャマではないことに気付いた。

今では小物置き場化している学習机の上には、自分のバッグと潤哉さんに渡すはずだったメンズブランドのペーパーバッグが並んでいる。

……夢なんかじゃない。

クリスマスと誕生日が近いせいで割愛されることのほうが多い、と苦笑いしていた潤哉さんの誕生日を祝おうと思ったけれど……それができなくて、結局、ボーナスがでたらおごる約束をしていた颯哉と飲んだんだっけ。