意を決して潤哉さんに『昨日は迷惑をかけてごめんなさい』とラインを入れると『樹希ちゃんの体調が悪くなければ今日会える?』と彼にしては早めのリタ―ンが来た。

そして、何が何でも絶対行くからっ、と待ち合わせの約束をしたのが、お昼前の話。


「樹希ちゃん、謝らないでよ」

潤哉さんのため息まじりの低い声に、体が震えそうになる。彼は俯いたままの私の背中を軽く押して、歩くようにと促した。

一緒に来てほしいところがあるからと、わけも聞かされぬまま歩くこと十分。駅前の繁華な通りを右にそれると緩やかなのぼり坂が続く場所だ。いつしか商業施設よりもマンションや戸建ての住宅のほうが目立ってきた。

潤哉さんは比較的新しそうな四階建ての建物の前に立つ。

花をモチーフにした外灯は、柔らかなオレンジ色の灯りで玄関ポーチを照らしていた。

ガラス戸を押し、なかに入ろうとした潤哉さんは、足が止まったままの私の手をそっと握った。

「誰のおうちなの?」と問いかけても、潤哉さんは何も答えず、手を握ったまま階段を登りだす。

三階まで上がるってきたときには、もう息が弾んでいた。私の大きな深呼吸に潤哉さんは、今日会って初めて小さな笑みを漏らした。

「運動不足だ」なんて言いながらドアを開けた。

ん? ドアを開けた?!

「潤哉さん……ここって」
「うん、まぁ。入ってよ」

私が玄関に入ったところで、潤哉さんはようやく手を離す。