「っていうか、あのハゲ絶対菱田さんのこと狙ってますよ」
化粧室でリップをひきながら言う三田の言葉に、わたしは口にくわえていたハンカチを落としてしまった。動揺が目に見えて、慌ててハンカチを拾う。
「そんなわけ……」
「だってアイツ、菱田さんにだけなんか対応が違うもん。しおらしいというか、遠慮気味っていうか」
「やだ、やめてよ」
冗談としても笑えない。
ぶるりときた寒気に身を縮ませると、三田はアハハと笑った。
「菱田さん仕事中はすごく真面目だし、清楚系だし。頭の固い人が好きそうなタイプ」
口が達者な後輩だ。
顔をしかめた私に、「褒めてるんです!」と三田は真面目な顔で言った。
だが、私だってコーヒーのセクハラはされた事はあるし、想定外のいちゃもんをつけられて何度も怒られた事はある。言われてみれば最近はそういった事はされていない気がするが……。もっと若くて可愛い子が良いのだと間引きされたとばかり思っていた。
もしかして本当に―――
考えただけで悍ましい。
やめたやめた、と目を瞑ってポケットに入れていたブレスケアを取り出す。
その拍子に何かが引っかかり、パサリと皺だらけの紙が落ちた。
「何か落ちましたよ?」
屈み込んで手を伸ばす三田の視線の先にあったのは、ホストクラブの名刺だった。
しまった、と思った時には既に遅く、名刺を手に取った三田は目を見開いて言った。
「これっ!あのホストクラブじゃないですか!?菱田さんもしかして……」
「違う!貰っただけ!行ってないッ」
反射的に開いた口から出た声は焦りが混じっていて逆に怪しい感じになった。
どうして捨てなかったんだろう、私のバカ!
「ここって紹介じゃないと入れないレアなお店ですよ!えーっえーっ初めて見た!」
頬を赤らめて興奮している三田の言葉をすぐに理解できず、私はポカンと彼女を見つめる。
「……そんなに有名なの?」
「もちろん!友達と行ってみたいねって話してたんです!」
「だったらあげるよそれ」
ホントですかッ、と悲鳴同然に言われて私はコクコクと頷く。
顔を輝かせる三田と自分の温度差を感じながらブレスケアを口内にプッシュしていると、
「今夜行きましょう!菱田さんも一緒に!」
「ッ!?」
動揺して手元が狂い、鼻の穴にプッシュした。
