「菱田さん、今日呑みに行きません?」
昼休憩、ランチをしている時に後輩の三田好恵が言った。
白いカーディガンにコーラルピンクのフレアスカートという女の子らしい恰好をしており、化粧もバッチリの三田は、薄くしているネイルに文句を言いながらサラダを頬張る。
「いいけど、どうしたの急に」
「ちょっと鬱憤溜まってるんです。月曜日からほんっとついてない!あのハゲ山の悪口会を開きましょ!」
女子社員の中では悪い意味で有名な揚山という上司は、小さな事でも気に入らなければ周りに当たるような人間だった。例えば、コーヒーの味が気に入らなければ、淹れてくれた若い女子社員を皆の前で怒鳴り、淹れなおさせる。それでも気に入らないと怒鳴り淹れさせる。半泣きで困惑する女性社員の背中を見ながら優越感に浸ったような顔をする揚山は、完全なる変態だった。
そして嫌がらせは女性社員にのみに行っている。だが、それでも誰一人強く言えない理由は、揚山がこの会社の子息であるからだった。
反抗すれば出世はおろか、クビにされる可能性もある。
そう思うと我慢できた。今の段階では。
名前を口にするのも悍ましく、社員の中では密かに髪の毛の薄い揚山をハゲ山と呼んでいる。
「朝早く出社したらハゲ山が次に来て、15分くらい2人きりだったんですよ!そしたら『コーヒーも淹れる気遣いもできんのかお前は』って!こっちは必死に仕事してる体で気づいてないフリしようとしてたのに!」
愚痴は続く。
「そしたらまたあの変態プレイですよ!人の体をジロジロジロジロ……気持ち悪いったらありませんよ!」
「真っ昼間からプレイとか言わないの」
隣にいる人の視線を感じて小さく注意する。
興奮していた三田もそれに気づき、唇を噛んで静かになった。
「わかった、行こう。いつもの居酒屋でいいよね?」
「ハイ!」
仕事頑張れる理由ができた、という後輩の可愛い呟きに、思わず頬が緩んだ。
