2次元は裏切らない



薄暗い部屋の中、パソコンの光だけが視界を照らす。
耳に付けたイヤホンからは男声が流れており、私の心は満たされていた。

ベッドの上に放置されているスマホはヴヴッと振動しており、何かしらの通知が来ているが今の私には聞こえなかった。聞きたくなかった。


本屋を出た後、顔色が悪い私の心配をした三保の声で解散となった。
久しぶりに会えたのに申し訳ない気持ちをを伝え、私は走ってマンションの一室へと帰宅。夕方で少し早いと思ったが化粧を落とし、シャワーを浴びてストックしておいた酒を呷り、今に至る。

”secret room”という店は完全なホストクラブだった。
従業員の顔写真の一覧を開くと、駅で話した若者の顔がすぐに見つかった。
あの時の親切は完全な客引きだったのだと思うと、何とも言えない気持ちが募って、単純に腹が立った。

そして、苛立ちが醒めてきた頃に自分は心のどこかで期待をしていたのだと自覚した。
もしかしたら、ひとつの恋の始まりになるかもしれない、なんて。

「……ありえない」

女子力も低くファッションよりも美容よりも二次元が好きな、美人でもない地味顔で、虫歯が無い事しか取り柄の無いアラサー女に、あんな若い人が好意を寄せるはずがない。
冷静に考えればすぐに分かる事だったのに。


『どうしたの?そんな悲しい顔しないで』

画面の中のイケメンが耳元で囁いた。

『嫌なことがあったの。……そっか、つらかったね』

そうなの。完全に騙されてたの。

『でもさ、君が誰よりも頑張ってる事、僕は知ってるよ』

本当に?

『ほんとだよ。だから元気出してほしいな。……僕にできる事があれば、なんだってするよ』


耳元で囁くイケメンボイスシリーズ《今夜は僕が添い寝する。直哉ver.》税込3500円。
好きな声優だったから購入したのだが、これは本当に傷んだ心に沁みる。

「……私、頑張れる……!」

何だか悩んでいるのがあほらしくなってきた。
ありがとう、直哉くん!

『ふふっ、良かった。笑ってくれて』


放置していたスマホに来ていた何通もの通知は、全て三保の名前で埋まっていた。