目を閉じた後の記憶が何も無い。


「おねえさん、おねえさん」

ユサユサと肩を揺さぶられてハッと目を開けると、こちらを覗き込んでいる金髪と目が合った。

「天神川ですよ」

駅に流れるアナウンスを耳に、垂れそうになった涎を慌てて拭って席を立つ。勢いづいたせいでフラついた体を支えてくれた若者に短く礼を言うと、一緒に席を立つ若者を見て「そういえば一緒の駅だったか」と思い出した。

外で熟睡出来たことに驚きながら、微睡む意識の中で電車を降りた。

人通りの多いホームを通って改札を出たところで、後ろにいた若者に振り返り頭を下げる。

「どうもありがとうございました」
「いーえ。よく眠れました?」
「おかげさまで!」
「なら良かった」

ニコッという人懐っこい笑顔に、こんな若いのに良い人だなぁと頬が緩む。
それじゃあと切ろうと口を開いたのと同時に、若者は履いていたジーンズのポケットから紙切れを取り出して私に差し出した。

「このままお別れってちょっと勿体ないなと思って。ここで働いてるんで、良かったらお店来てください。サービスします」

差し出されたのは”secret room”と書かれており、住所、電話番号が印刷された名刺だった。

「……お店?」
「シークレットルームって読むの。お酒が飲める所だから、良かったら仕事帰りにでも」

ちょっとでも気分転換になると思うから。

そう気遣った言葉を残して若者は去って行った。
ポツンと残された私は名刺を片手に、初めて聞くお店に興味を持った。

今度行ってみようかな……。

若い人と話したの久しぶりで楽しかったし、と思いながら帰路を辿っていると、どこからか流れてきたBGMに顔を上げる。
視線の先には、青いパネルの上のスクリーンに流れている綺麗な顔立ちの男の子たちが踊るアニメ映像。

「この歌……ッもしや”ハダカの王子様”!?」

足先を帰路からスクリーンが嵌められている店へと向けた。
疲れが一気に吹っ飛んだ瞬間だった。