『おかえり!今日もお疲れさま』

ただいま直哉くん。

『先にお風呂入ってくる?帰りに入浴剤買って来たんだ、ゆずの香り。君の仕事の疲れが少しでも取れるかなと思って』

私の為に?嬉しい。

『当たり前でしょ?君は僕の一番大切な人だから』

ブチ、と流れていたBGMが切れた。
目を開けると、見慣れた友人の顔が鼻の先まで迫っていた。





「何で電話出ないのよ」
「どうしてここに!鍵は!?」
「開いてたわよ」

嘘、と玄関を見るが、自分の部屋に三保がいる状況からして閉め忘れたのだろう。

「ツラい事がある度にその怪しいCD聴くのやめなさいよ」
「あやしくないもん!直哉くんだもん!」
「ハイハイ。……で?何があったのよ」
「……へ?」
「昨日の夜中に泣きながら電話してきたのアンタでしょ」

嘘、と慌ててベッドに投げていたスマホを確認すると、確かに夜中の3時頃に三保に連絡した履歴が残っていた。

「朝起きたらアンタのすすり泣く声が留守電で入ってて、ほんっと怖かったんだから」
「……ごめんなさい」

全く覚えていない。


結局、あの後は三田にタクシーでマンション前まで送ってもらった。
元々は三田の気分転換の為の時間だったのに、本当に申し訳ない事をしたと反省し、次の日の会社で再度謝ると、

「いいんです、行けただけでも良かったですから」

と、いつもと変わらない態度で接してくれた。泣いた理由を聞いてこないのは、きっとこの子なりの気遣いなのだと思う。1日ボーッとしながら過ごした時間は早く感じて、仕事の内容もほとんど覚えていない。ハッと我に返って手元を見るとできあがっていた書類に、私は意識が無くても仕事ができるスキルが身についていたらしいと感動した。

魂の抜けたような状態で電車に乗り、歩いてマンションの部屋に着くとノートパソコンに飛びつき、今に至る。

ハァ、と息を吐いてソファに腰を下ろした三保は若干息が上がっており、仕事が終わって急いで駆け付けてくれたのだと思うと鼻の頭がツンとした。

「本当は彼氏とデートの予定だったけど、親友のアンタの為にドタキャンしてきたんだからね!今日は泊めさせてもらうから!」
「えっ、う、うん、ごめん……」

シュンと目を伏せた私の頭をくしゃくしゃと撫でた三保は口角を上げ、何か作ってあげると腕まくりをしながらキッチンへ向かった。

惚れてまうやろ……。