「……ほんとに行くの?」
引きずられるままに足を動かす私の腕を掴んだ三田は、当たり前ですとニコニコしている。
いつも定時過ぎで終わる仕事も今日は早く終わらせた彼女の気合は十分に感じられて、足取りは重いが彼女について行く。というかまだ鼻の穴がスースーする。
友達と行けばいいじゃない、と言うと、今度会って自慢したいので、という、何かしらのプライドが彼女にはあるらしい。
それにしても鼻がスースーして仕方が無い。
一旦鼻水でも出してみるか、と踏ん張ってみると同時に、
「アッここですよ!」
三田の声に顔を向ける。
下りられるようになっているオシャレな階段の傍に”secret room”と書かれた看板があった。
地下にある店らしく、ガラスで手前は中が見えるようになっているので入り辛さはさほど感じない。
行きましょう、と腕を組む三田に促され、地下へ降りて扉を開ける。
途中から扉の重さは無くなり、半自動で開いた先にはベストを着た男性が立っていた。
「いらっしゃいませ、ようこそsecret roomへ」
丁寧な出迎えに三田はキャッと声を上げる。生まれて初めての景色に私の思考と体は硬直していた。
促されるままにカウンターへ向かい、そこを任されているらしい小柄な男性がメニュー表のようなものを出した。
「名刺はお持ちですか?」
その問いかけにハッと我に返ってポケットから皺になった名刺を取り出す。失礼だったかと顔を窺ったが、男性はハイとひとつ頷いただけだった。
「当店のご利用は初めてですね。簡単に説明させていただきますと、ここはこの店で働く者の紹介でしかご利用できないシステムとなっております。なので、お客様は特別なのです」
「!」
伏せられた目と目が合った、気がする。
異様な色気にドキリと体が強張ったが、頬を赤らめている三田の反応からして多分同じことを考えているのだろう。気のせいだったのだと思うことにした。
「好みの男性を指名することができますが、ご希望はございますか?」
パラリと開いた表にはズラリとホストの写真が並んでおり、ホームページにあったのと同じだと密かに思う。
ボウッと見ていると横で三田がクイクイと私のスーツを掴んだ。
「せっかくだから人気No1にしときます?アッでも値が張りますね……」
「……指名料くらいなら私が払ってあげるわよ」
「ほんとですかっ!」
じゃあこの人で、と即決。
現金な子だわ、と目を細める。
「かしこまりました。お客様はいかが致しますか?」
本当はあまり会いたくないのだけれど、ここまで来たら仕方ない。
「この人で」
「かしこまりました」
