周囲から視線を感じる気がするのは、この際気にしない事にした。

3日前から缶詰め状態のせいか、肩下まである髪はガサガサでキューティクルなんてものは無く、顔はほぼノーメイク、いつもつけているワンデイコンタクトは外して今は分厚い眼鏡、よれよれのスーツ。

見るからにボロボロな姿の小汚い女が電車に乗って来たら、きっと誰もが不審がるだろう。だがこの時の私はそんなことの為に気を遣う気力は無かった。
一刻も早く家に帰ってお風呂に入りたい。熱いお湯に浸かりたい。泥のように眠りたい。

快速の電車で何の事故もなければ約20分程度。
今にも落ちそうになるまぶたに力を込める。

どこか席は空いてないかと視線を巡らすと、ひとつだけ空いているところを見つけてすぐさま向かう。
二人掛けの通路側。
どかりと崩れるように座り、ハァァ、と張りつめていた踵の低いヒールを脱ぐ。履き続けていたので若干赤い線ができていた。ストッキングも電線ができており、もう本当に小汚いと認めざるを得ない。


とにかく最寄駅までは起きておこうと姿勢を正すと、

「おねえさん、大丈夫?」

その声は左隣の席の男性から掛かった。
明るい色に染めた髪に耳元はピアスの穴が。綺麗な顔立ちをしているがチャラついた格好をしている20代くらいの若者で、そう言った類の人間は苦手なので一瞬対応に困ったが、一応心配してくれているらしい気遣いを無視するわけにはいかない。

「ええ、平気です。ありがとうございます」
「平気そうには見えないけど。最寄駅どこですか?近くになったら起こすんで、寝てもらっても大丈夫ですよ」
「でも、天神川で20分程ですから……」
「あ、オレも同じ駅なんで、尚更寝てください」

見てるこっちが痛々しいです。

そう言って笑う若者に、私は一気に心が洗われた気がした。
見た目で判断してしまった先ほどの私を許してください!

「本当ですか……?じゃあ、お言葉に甘えます」
「ハイ。甘えてください」

その後、若者はイヤホンを耳に着けて携帯を弄り出した。
寝る姿を見ないようにしてくれているのだろう。ありがたい。

くたくたになった心に若者の言葉は、少なからず癒しになったことは確かだった。