少しだけ和やかな空間が会議室の中を覆った時、突然、享のスマートフォンが着信を告げた。


「会社からだ」


本日は有休申請書を出していたはずなのに、休日に連絡がくるなんて珍しい。


「はい?」


享が電話に出ている間、八之助は「源之助。援助の人を出来るだけ集めろ。今すぐじゃ」と静かに呟いた。


「人ですか?」」


「何か嫌な予感がする」


「招致しました。このビルにですね」


「そうだ」


指示を受けて、源之助は部下に指示を出す。


何か起こっている訳ではない。


ただ総帥の命令だと言えば、人は集まる。


「なんだ?」


光二が眉を顰めた。


「わからない。でも、何か起きる」


そう源之助が言った瞬間「源之助!」と享が珍しく大きなヒステリックにも聞こえるような声で言った。


「どうした?」


「メイン……メインコンピューターが」


「コンピューターがどうした?」


「データが全部、消えてると」


「は?どういうことだよ」


光二が享に詰め寄った。


「享、落ち着いて話せ」


源之助が極めて冷静に言った。


普段はふざけているが、こういう非常事態になると彼はとにかく冷静なのである。


そこが光之助と源之助の違いだった。


興味がない訳でもやる気がない訳でもない。


とにかくその時の最善の方法を考えるのが、源之助はうまいのだ。



「このビルのメインデータ……つまりは電話回線、インターネット回線、その他回線が全部バグった」


「……!」


「……!」


「……!」


「原因は不明だ。俺、ちょっと会社に行ってくる」


そう言って享は走って会議室を出ていった。


「ちょっと、待て!享!」


声をかけるも彼は去ってしまった後だった。