「日下部さん。今朝のニュース見た?」


店長の中村が興奮気味に声をかけてくる。


「見ましたよ。爆発事件ですよね」


「あれ、源様の所有するビルらしいよ」


知っている情報をそんな堂々と説明されてもと思いつつ「え、そうなんですね」と曖昧な返事をしておく。


今日作ったお弁当はしっかり届いているのだろうか。


「日下部さんの家の火事といい、なかなか平穏な生活が訪れないね」


「本当ですね……」


「次は、このビルだったりして」


「縁起でもないこと言うのやめてくだいよ」


中村の笑えない冗談に、あずさは顔を引きつらせて笑った。


「ごめん、ごめん。キャラメルソース補充分なくなったから、レジお願いね」


「わかりました」


一人レジに残される。


ピークの時間も終わっているので、昼間前の時間は少し暇だ。


少しだけ斜めに曲がったメニュー表を指先で直していると「注文いいかしら?」と声をかけられる。


「承知しまし……圭さん?」


「先日ぶりね。ブラックコーヒー2つ頼めるかしら?」


「その節はお世話になりました。780円です」


「安いのね」


驚いたように圭は言った。


「上の階とは違いますからね。あ、ご馳走します。先日のドレスとかもクリーニング中でしてまだ返せてないですし……」


「……いいのよ。あげるわ。あのドレス」


「いえいえ!いただけません!」


「コーヒー代の御礼よ」


「よかったら、スコーンとかも」


商品の菓子を何個かつめるが「今ダイエット中だから糖質系は遠慮しとくわ」と笑ってコーヒーを受け取った圭は去って行く。


どうやったらあんなに綺麗で優雅な女性になれるのだろう。


羨ましい。


心底思うあずさだった。