「光之助兄さん……とあずにゃん?」


そこに立っていたのは、兄と美しく変身したあずさだった。


美しく変身しているものの、彼女には表情がない。


一体光之助に何をされたというのだ。


麗華がさらったというのに、なぜあずさは光之助と一緒にいるのだろうか。


混乱して反応が遅れる。


気が付いた時には、拍手喝さいの中にいた。



「これはめでたい話ですな!」


「二つ財閥がくっつけば日本は彼のものになったも当然」


口々に祝いの言葉を述べられ、更には光之助が「皆さま、乾杯を。我が弟松平源之助に!」と乾杯の音頭を取る。


「ちょっ……「源之助さん」」


「……」


「私、絶対にあなたのよい妻になりますわ」


「麗華さん」


「では、また詳しいお話しは後日」


嬉しそうな表情で彼女は源之助の目の前を去って行く。


もう有無を言わせる気もないのだろう。


満足そうな表情で去って行く彼女を、止めるための手が空中に浮いたままだ。


「弟よ。全てを手に入れた気分はどうだ?」


柔らかい笑みで笑う。


彼の横に立っている自分の愛しい女を抱えている兄の手を振り払い、すぐに連れ出したかった。


「兄さん。彼女から離れてくれ」


「何のことだ?彼女は自分の意志でここに私と来た」


「あずにゃんが?」


「……」


「……」


沈黙が続く。


あずさは何も言わない。


「今一緒に住んでいるのもそろそろ解消してもらわないといけない」


「どういうことだよ……」


拒絶したのはそういうことだったのか。


頭の中で嫌な妄想がぐるぐると駆け巡る。


「お前は婚約している身だ。他の女と同棲しているなんて噂、流されたくないだろう?」


「……俺は構わない」


「松平財閥は構わないなんて言わせない」


「……」


「お前は立場ある人間になった。彼女はお前の汚点だ」


「……そんなことはない」


「では、ここで大きな声で叫ぶがいい」


光之助に言われて、源之助はあずさの方へ手を伸ばす。


そんなこと簡単だ。


彼女が好きだということをこの場でもう一度伝え、大切な人だということを世間に知らせるチャンスを逃すわけがない。


「あずにゃ……「いや!触らないで!」」


泣きそうな顔で彼女は彼を拒絶した。


「……」


「一緒に住むことを解消します」