「あの……」


「こちらへ」


静かに言われて、あずさは圭のあとをついていく。


「あなたも不運な方よね」


「はい…?」


「家を失って、拉致されて、更にはこれから辱めを受けさせられそうになっているんだもの」


「辱め?」


人気のない場所に連れてこられ、圭は厳しい表情で言った。


「松平源之助と付き合うってそういうことよ。自覚が足りないわ」


「……」


これ以上どうしろと言うのだろうか。


家が無くなったことは不可抗力だ。


「選んでちょうだい」


「……」


「あなたがどうしたいか。それで次第によっては協力するわ」


「……え?」


「あの女、私嫌いなのよね。相手の気持ちも考えずバカみたいじゃないの」


意外な言葉が出て来て呆気にとられるあんずに、圭は「で、どうするの?」と尋ねた。


「どうするって……」


「あなた、あのままバカにされていい訳?」


「バカにされている訳じゃ……」


「バカにされていたわよ。このままのこのこ家に帰ってもまた同じことになるわよ。こういう時に源之助様を使うのよ」


今、あっさり使うって言いました?


というツッコミはしていいのだろうか。


「あの……」


「少しだけよ。少しだけ力を貸してあげるわ」


ニヤリと笑って圭が言った。


美しく妖艶な彼女が勝気な様子で笑うと、非常に頼もしく感じた。