吉伸が撮影している間、あずさは彼の仕事を黙って眺めていた。


FURADAの新商品について語っている言葉は、先ほどあずさが教えた情報である。


「おおー!マンゴーの香りがしっかりしていますね!俺、これ好きだわ」


美味しそうに口に含み、吉伸はさらにオススメしたマンゴーティーの箱もカメラに近づけた。


「これも、人気商品らしくB.C. square TOKYO店では品切れ寸前らしいです。俺が買いに行った時は、もう最後の一個でした!じゃあ、淹れてみましょうか」


そう語りながら、器用にお茶を淹れていく。


研修の時に、美味しい紅茶の淹れ方というのを習ったが、吉伸はマニュアル通りに丁寧に美味しい紅茶を淹れていた。


撮影も終了し、お決まりのポーズも決めてカメラを止める。


「あずにゃんありがとうね」


「いえいえ、こちらこそうちの商品扱って下さってありがとうございます」


きっと動画がアップされた頃には、お客がたくさん来ているだろう。



商売繁盛。


有り難い話だ。



「ところで、あずにゃん。夕飯どうする?」


「え?」


「まだなら一緒に食べに行かない?ご馳走するよ」


「いやいや、そんな申し訳ないです!」


「何でさ?ネタを提供してくれたんだから、いいでしょ。コーヒーもご馳走してもらっちゃったし」


「商品扱ってもらうんだから、当然ですよ」


「割と強情なところあるって言われるでしょ?」


苦笑気味に吉伸は言うと「じゃあ、あずにゃん手料理作ってよ。そしたら、源之助も喜ぶだろうし」と良いアイディアだと言わんばかりに指をぱちんと鳴らした。


「手料理ですか?」


「うん。俺今めっちゃカレー食べたいわ。甘い物飲んだからかな?」


「わかりました。材料買いに行かないとですね。この家の冷蔵庫何もないので」


「うーん。まあ、男の四人暮らしだからな。享とかはたまに料理するみたいだけど、あいつもSEだし忙しいからなかなかな……」


「栄養偏ってそうですよね」


「まあな。働く男なんてそんなもんだよ。だからこういう職業にしたんだけど、最近はあんまりサラリーマンと変わらんね」


「そんなもんですか?」


「そんなもんだよ。売れればサラリーマンと同じで何かに保証されないと身動きがとりづらくなっていくからね」


「そうなんですね……」


華やかな世界にも、重石みたいな何かがあるのだろうか。


じっと見つめていると「そろそろ買い出し行こうか。荷物持つよ」と吉伸は言った。