「ありがとう」

ニッコリ笑って置かれた料理を一瞥してから、源之助はその美女に御礼を言った。

「お見かけしない方がいらっしゃいますが」

「ああ、圭(けい)さん。彼女はあずささん。ここの会員に名前を入れておいて」

「かしこまりました。あずさ様、BC.Squea ラウンジにようこそいらっしゃいました。私、ここの経営者の圭と申します。以後お見知りおきを」

「は、はい。よろしくお願いします」

あまりにも上品に挨拶をされるので、あずさもかしこまってしまう。

「では、ごゆるりと」

優雅に去っていく圭。

あんな妖艶な美女とも知り合いなんだ。

「すごい、綺麗な方ですね……」

「圭さん?」

「はい」

「彼女、もともとミスユニバースに選ばれるような人だったからね」

ミスユニバースって世界で一番どの人が美人かって決めるコンテストだよね。

すごすぎる……。

食事を終えて、帰る。

料理は本当に美味しかった。

こんなものを毎日食べていたら、舌が肥えてしまうだろうなと感じる。

元の生活に戻った時、大丈夫だろうかとまで心配になった。

「あの、代金は?」

ラウンジを普通に出て、エレベーターに乗ろうとする源之助にあずさは声をかけた。

「ああ、ここの会員になってると毎月一定額が引かれるから、代金をいちいち払う必要はないんだよ」

「え……」

当たり前のように言われて、あずさは言葉を無くす。

自分の会員代も払われているということだろうか。

「あずさちゃん。気にしないで。俺がしたくてやっていることだから」

エレベーターの中で源之助が笑って言った。

「いえ、そこまでしていただく義理はないです」

「……」

「……」

「じゃあ、義理が出来ればいいんだよね?」

静かに唇が重なった。

柔らかい源之助の唇があずさの口にかぶさる。

唇は優しくついばむくせに、抱きしめた手は強くあずさを抱えていた。

逃げることは許さないというように。

源之助からは香水の優しい香りがした。

「ねえ、あずさちゃん」

「あっ……だ…め…」

「すきだよ」

ルームシェア1日目。

前途多難の毎日が幕を開けた。