目の前に横たわる生き物はピクリともしない。

説明を求めて、その脇に何事もなかったかのように立っていた男の方を見た。男はヘラリと笑って肩をすくめる。

「大丈夫。もう死んでる。」

いきなり部屋に派手に侵入してきたと思ったら、もう倒されたなんて表紙抜けだが、さっき感じた恐怖は本物だ。男が手招きするので、多少ビクつきながらそちらに向かう。

黒いその生き物は全長8mくらいはある感じだ。横にも縦にもでかく、倒れた時にはものすごい質量を感じる音がしたくらいだ。男の近くに寄ると、ようやくその顔がお目見えする。牛のようなツノが二本、ベースは人間ぽいが、どうも口元は獣っぽい。皮膚は爬虫類のようだし、なんだこの生物は。

「魔物。モンスター。」

私の心中を察してか、男が説明を入れる。全然答えになってないけど。

「な、なんでそんなものがこんなところに…?」
「”異世界”だからね。」

そのキーワードをわざとらしく使って、男は皮肉っぽく微笑んだ。その笑みは私に、ここが異世界だとわかってくれた?と言っているかのようだった。

「ここは本当に…異世界…」

目の前に横たわる証拠を否定できずに、私は納得するしかなかった。