「契約書は通常のもののようだ…。ならばさっさと契約に移ろう。」

それから数分後、契約書の全文を読み終えたらしいブランはそう言った。頭の後ろで手を組んで待っていたレイリーは余裕の表情で、「だから言ったでしょ。」と答えたが、ブランからは何も返ってこなかった。

「契約者は保護者にするか、それとも本人?」
「保護者にする。」

間髪入れずに答えたブランに、レイリーは一瞬顔を顰めたが、すぐに平静を装うとビジネスライクに「わかりました。」と短く答えた。

いつもと様子が違うブランを恐る恐る見ると、ブランは苦笑いを返した。その笑みには余裕がなさそうである。

何が一体どうなっているんだろう…。私が迷惑かけてるんだよね?

胸の奥がチクリと罪悪感で傷んだが、今はブランに任せるしかなかった。



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無言で重々しい雰囲気の中執り行われた契約は、無事に終わったらしく、ブランの目には再びホッとしたような笑みが戻った。

「んじゃ、あとは彼女にどの部屋にするか決めてもらうだけだね。」

突然子供に戻ったように無邪気に言ったレイリーは、私の腕を掴んで歩き出そうとした。いきなりだったのでバランスを崩しそうになるも、なんとかついて行こうとする。レイリーの豹変ぷりはいろんな意味で動揺させられた。

このエリアになると本棚の間隔は少し狭くなり、さらに奥に続いた細い道に私とレイリーはさしかかろうとしていた。あとに残されたブランとアルトが私が視界から消えると話を始める。


「…アルト。」
「あぁ、わかってんよ。めんどくせーな、お前もあの嬢ちゃんも。」
「…悪い。」
「マジで謝んなよ。恐縮しちまうだろうが。」

珍しく少し笑みを覗かせたアルトが立ち上がり、私たちを追おうとする。


「頼むよ。」
「任せとけって。おめーは安心して仕事行きやがれ。」


そう言って、アルトは跳ねるようにしてその場を去った。ブランはその後ろ姿を見て軽く微笑んだ。