「待て。ルカに何をさせるつもりだ。」
「部屋の契約だよ〜?ここら辺で、本も手にせず3人突っ立ってるってことは、部屋を借りに来たんだろう?」

ご名答なわけだが、ブランは不服そうだ。

「契約書を見せろ。」
「何?怪しい契約書だと思った?普通の賃貸証明書に決まって…」

レイリーが言い終わる前に、その手からさっと紙を奪うと、ブランは事細かに読み始めた。

事態にいまいちついていけない私が口を開く。

「あの〜…」

3人がバッと同時にこちらを見た。え、なんか怖いんですけど。

「君は、異世界からの人間だろう。」
「え?どうして分かったの?」
「見たことない人間が、副隊長殿と狼の化身に連れられているんだ。他に何がある。」

それが私が異世界から来た人間であるという、どういった決め手になるのか理解に苦しんだが、とりあえず納得しておくことにする。


「ルカ、ここは黙ってオレに任せろ。」

ガラにもなく、表情が険しいブランが割って言う。何か可笑しいのか、クリンと口角を吊り上げてレイリーがブランを見た。


「何?随分と過保護なんだね、この子に。」
「黙れ。お前が法律を犯さないように見張っているだけだ。」
「ああ、成る程。そうだね、そのくらい大事にしなくちゃ、前の異世界人みたいに丸焦げに…」
「レイリー!!」

脇で見ていたアルトが突然声を荒らげた。アルトが牙をむき出しにしている。

「調子乗りすぎだてめー。俺は別にブランとこの赤子の味方ってわけじゃねーが、今のは言い過ぎだ。」
「そうかな?ははは、そうかもね、悪かったよ。」

悪びれる様子もなくケラケラと笑うレイリーは、まだあどけないが、事情をよく知らない私の目にも、天使の着ぐるみを着た悪魔のように見えた。