「ああ、そうだね。あの人は綺麗にすてきに年を重ねてるな」

「うん。だから、洋介から謝っておいて。傷つけてごめんなさい。失礼なことを言ってごめんなさいって。
私もあの人と同じ位になった時にあの人みたいに凜々しく
格好良くしていたい。」
えへへと笑ってお茶を飲み干した。

「帰ります。大将、ありがとうございました」
綺麗にお辞儀をした。
絵里子さん効果。ここにも信者誕生か。
全く、あの人はすごいよ。

「帰り、気を付けてな」
「うん。大丈夫」

「あのさ、浩介くん。しつこいけど、あの人ゲットしないと一生後悔するよ」
心配そうな顔をした。

「おう、がんばってみるよ。でも、彼女なかなか手強いんだ」
笑って日本酒を飲み干す。

「え?そうでもないと思うけど、ま、わかんないならいいや。じゃあね」
そう言って茉優は帰って行った。


鈴木と話をしたあれからずっと俺は考えていた。
どうしたら、俺が絵里子さんを迎えにいける?
力をつけるってどういうこと?
どうしたら彼女をかごから出してあげられる?

先日、バルで茉優に言われたことを思い出す。今のまま彼女のそばにいたら、俺は彼女のヒモと思われ彼女が嘲りの対象になってしまうんじゃないか?

鈴木は力を付けて彼女と結婚をすると言っていた。
力ってどういう意味だろう。やはり金か?社会的地位か?

黙って呑んでいると
「そういやさ、お前、転職したの?」
武史が聞いてきた。

「いや、あのままあの会社にいるよ。今はショッピングモールの店舗の責任者やってる」

「そうか。俺はてっきり辞めて、やりたかった夢を追いかけてるかと思ったよ」

「…夢か」
そう、今の店の責任者になることが決まってからずっと悩んでいた。俺がやりたかった仕事ってこれでいいのかって。このままでいいのかと。

正直なところ、仕事内容だけでなく報酬に不満もあった。
結婚して子育てして…趣味もマイホームも老後もと思うと。

夢を追いかけ、それなりの収入も得るためにできること。そして、今は更に絵里子さんと祐也を1番近くで守りたいと思っている。
さぁ、どうする、俺。