2人でリビングで立ち尽くす。

「絵里子さん、えーっと何だかすみません」

「いえっ。こちらの方こそごめんなさい。あの子達ったら」
ああっもうっと言いながら「すっぴんなのであんまり見ないで下さい」と両手で顔を隠した。

クスッと笑って「泣き顔もすっぴんもきれいですよ」と近付くと
「無理、無理です。本当に無理。お化粧してきていいですか」って後ずさる。

「いや、体調悪いんですよね?お化粧とかいらないし。休んでなくて大丈夫ですか?」

本当に化粧なんかしなくても絵里子さんは顔のパーツがはっきりしていてきれいだ。

「やっぱり無理」と言って走ってリビングの右手の部屋に入ってしまった。

部屋の中から「ちょっとだけ座って待ってて下さい」と聞こえてから5分後、薄化粧してニットワンピースに着替えて「すみません。お待たせしました」と出てきた。

「着替えまでしちゃいましたか」
がっかりした。フワフワモコモコの部屋着の絵里子さんが良かったのに。

「残念、かわいかったのに」
呟くとまた顔を赤くする。

「もう、勘弁して」うつむいてキッチンに行こうとするので腕を軽くつかむ。

「それで体調は?大丈夫なんですか?」

いきなり腕をつかまれて驚いたようだったが
「昨日点滴をしてもらったし、昨日今日と寝たらかなりすっきりしました」
いつものようににっこりとした。

「点滴するほど悪かったってこと?」

「そうじゃなくて。辛かったのは本当なんだけど、点滴すると早く良くなるっていうか楽になるからって、鈴木先生がわざわさ往診してくれたので」

「鈴木先生?」

「凌くんのお父さんなんです」

「鈴木?そうか、鈴木」
鈴木のことを下の名前で呼ぶのは知り合いにも鈴木がいて紛らわしいからと言っていた。
父親のことだったのか。