「違うんです。偶然出会ったんです」

まいちゃんは必死で説明していた。
ハイヒールで走って転びそうになり、偶然出会った俺に支えてもらったと。

祐也は知り合いのラブシーンなどとはやし立て絵里子さんにとがめられるがやめない。

俺も絵里子さんに誤解されるのは御免だ。
俺からも説明させて欲しい。
口を開こうとしたら
「絵里子、もう遅いから早く帰るぞ」
と鈴木が冷たくいい放った。

街なかで抱き合ってるこいつらに用はないとでも言いたげな冷たいひと言だった。

それでも絵里子さんはまいちゃんを心配していた。
明らかにまいちゃんの様子はおかしい。

「大丈夫?顔色が悪いわ。送るわよ。それとも2人でお出かけだったのなら山口さんにお願いできるのかしら?」

絵里子さんはやっと俺に目を向けたが、その冷めた視線に俺は一瞬で心臓が縮んだ。

「いえ、今ここで偶然出会っただけですけど、必要なら俺が送りますよ」

縮む心臓を奮い立たせて声を絞り出す。
これは誤解されている。

2人で出かけて
夜の繁華街の公衆の面前で抱き合う
まいちゃんは顔色が悪い

これの意味するものとは

まずい、誤解を解かなくては。

「あのっ!本当に山口さんとは今ここで偶然出会ったんです!転びそうになって助けてもらって。だから、ひとりで帰れます!」

まいちゃんはもはや涙目になりながらなぜだか必死で説明する。
送るという絵里子さんに頭を下げて断り、帰宅したら絵里子さんに連絡をするという約束をしてタクシー乗り場に走って行ってしまった。

ちょっとした台風に巻き込まれたようだ。

「絵里子、祐也行くぞ」
ぼーっとまいちゃんの走って行く後ろ姿を見送っていたら、明らかに不機嫌な鈴木の声にハッとする。

絵里子さんも何かを感じたようでちらりと横目で鈴木を見たがすぐに俺に真っ直ぐ視線を向けた。

「まいがお世話になりました。では私たちも失礼します」
他人行儀な言い方で軽くお辞儀をして絵里子さんはすたすたと歩いて行ってしまった。

その後ろを慌てて祐也が追いかける。

「山口さん、お休みなさーい。また明日のトレーニングよろしくお願いします!」
「おぅ!」
手を振って答えた。

あれは絶対誤解してるよな。
無表情の絵里子さんを思い出してため息が出た。
明日のトレーニングの時に説明しなくては。

俺は悪くない。