ストレッチからトレーニングを開始する。

一緒にストレッチをしていると身体だけでなく気持ちもほぐれてくる。

俺は時間があるときは自分の担当に関わらず会員さんと一緒にストレッチするようにしている。身体をほぐしながら他愛ない会話をしてコミュニケーションをとるのだ。

「ところで、何で僕はお母さんを誘う許可をもらえたの?」
と一緒に開脚前屈しながら聞くと
「だって、山口さんはよく僕に『今日の夕飯何?』って聞いてきますよね。で、僕が答えるといつも『いいなー、それいいなー』って身体をバタバタさせたりして全身を使って羨ましがってました。それ見てて何だか嬉しくなったっていうか」

ん?そ、そうだったかな…。少し恥ずかしくなる。
全身を使って羨ましがるって…。

そういえば、絵里子さんと面談の時に料理の話をして以来彼女には料理上手な印象があり、ちょくちょく祐也に夕飯のメニューを聞いていたかも。

「キーマカレー」とか「酢豚」「切り干し大根の煮物」「豆乳鍋」「クリームシチュー」「豚の生姜焼き」どれもうらやましかったな。帰ると温かくて美味しいご飯が待っているとか。俺は高校卒業以来一人暮らしだし、料理も得意ではない。

「母の料理は僕の自慢でもあるんですよ。まぁ、山口さんが合格したのはそれだけじゃないですけど、それもって事で」
とにまーっと笑う。
その顔は少年らしくかわいかった。
純粋に母親を褒められて喜んでいるような顔だ。

「一人暮らしが長いからね。確かに祐也くんちのご飯はかなり羨ましい」
「母にうちの夕食に誘ってもらえばいいんですよ」と笑われた。


いつものようにトレーニングが終わる少し前に絵里子さんは迎えに来た。
俺と目が合うとニコッとして会釈をしてくれる。
それだけでどきどきした。
ここしばらく絵里子さんの事ばかり考えていた上に祐也があんなことを言うからだ。

あぁ、本当に魅力的な女性だ。