「ねぇねぇ、絵里ちゃん。柴田さんって全然変わらないね!」
と美樹さんは鈴木と話している笹森さんに声をかける。

「そうなのよ。あの頃と変わらないのよ。反則でしょ?」
と少し頬を膨らませる。
「いや、お二人ともあの頃と変わらずお綺麗ですから」
と柴田が言うと

「ウソくさい。
大体14年もたつのに変わらないわけないじゃん」
「いや、僕もでしょう」
「男はいいの」
と言って2人で笑い合っている。

14年来の知り合いか。
それは長いな。
柴田と笹森さんとの間の雰囲気が他の保護者と違った理由はそういうことか。

いつの間にか鈴木と笹森さんが木田達の仲間に入ってわいわいと盛り上がっている。
鈴木もいつもの女性を遠ざけるクールな感じはない。
くだらない木田のジョークに笑っているし。
いつもは苦笑程度だぞ。
笹森さんも笑っていた。

よく見ると、笹森さんはよく飲みよく笑っていた。
笹森さんはクールビューティーだと思っていたから新しい発見。
そういえば祐也は留守番かなと思っていると、こちらを振り返った笹森さんと目が合った。

ニコッと笑ってグラス片手に空いていた俺の隣に移動して来てくれた。
やばい。どきどきしてきた。

「山口さんがまさか、隣で飲み会していたなんて」
ニコッと笑う。

「本当に偶然ですね」

「私たちが隣でうるさかったんじゃないですか?ごめんなさいね」

「いえ、こちらこそ。木田が迷惑かけてしまって」
と言うと、ふすまをいきなり開けて腰を抜かした木田の姿を思い出しちゃったと、ころころと笑い出した。

「絵里ちゃん、笑いすぎ。酔ってるでしょ」
美樹さんにたしなめられてもまだ笑っている。
そのうち「苦しい」と言いながら目に涙をにじませでいる。

「笹森さんって笑い上戸ですか?」
と美樹さんに聞くと
「あれ、いつもだから。あれが絵里子の正体」
だから気にしなくていいのよと言われた。

ああ、楽しそうだ。
そんな彼女はとてもかわいらしい。
もっとクールな女性かと思っていた。どうやらそうではないらしい。

しかし、残念なことに人妻。中学生男子の母親。
不倫関係になんてなれるはずもない。
もっと早く出会っていたら俺の人生変わっていただろうか。