「何だかさ、仕事中にプライベートで崩れるなんて最低だよな。
しかも、俺は笹森さんに言われたその時、祐也と何の話をしたのかも覚えてないんだよ」

祐也の母親と話をしたことで目が覚めて。
うちに帰ってから、保冷剤に包まれたもらったスィーツを手にとって見ると手作りの生チョコレートだった。
冷えたそれをひと口食べてみると、口の中で甘くほろ苦いチョコレートがスッと溶けてなくなる。
それが自分の心を表しているようで、また情けなくなって泣いた。



「それで自分の気持ちを立て直して。で、彼女は俺の女神なのさ。失恋から立ち直るきっかけを作ってくれただけじゃなくて、自分の仕事に対する姿勢まで見直すきっかけをもらったんだよな」

ふぅん、そんなことがあったのか。

木田もうんうんと聞いていた。
「俺、まだ笹森さんって話をしたことないんですよね。笹森祐也君の担当もしたことないし。きれいなお母さんとかいいですよねー」

「ひよっこに中高生のパーソナルはまだ早い」
木田の眉間をビシッと指差して言ってやる。

山田は照れ笑いをし、木田は更に「笹森さんと話してみたい」などと言ってる。
柴田は笑いもせず黙って酎ハイを飲んでいた。

「えー、何すか?笹森さんの話題?」
「俺も混ぜて下さいよー」
と井出や中島達が話に加わる。

「ユーヤとお母さんって仲良しですよね。」
「ユーヤが優しいんだよ。お母さんにさ。お母さんの荷物を持ってやったり、ドアも開けて先に通したりしてさ。男子中学生は普通やらないよね」
「ああ、それに『お母さん』じゃなくて名前で呼んでるし」
と次々に笹森親子情報があがる。

「『うちの母親は男前なんだ』ってこの間ユーヤが言ってたよ」と井出が笑う。

「きれいな優しそうなお母さんじゃんって言ったら、『うーん、きれいかどうかはわからないけど、優しいかは疑問ですよ。確かにまぁ優しいんですけど、俺にはキツいし。それに、何ていうかあの人は独自路線っ歩いてるっていうか…あの人はちょっと変わってる』って言ってた」

「あ、俺も聞いた。『男前で笑える母親』って。ユーヤから見て自分の母親はよその母親とは少し違う気がするらしいんだ。どんなかはわからないけどね」

「そういえば、祐也の保護者面談は誰がやってたんだっけ?」
と聞くと山田が「柴田だよ」と言う。

みんなの目が、黙って飲んでいた柴田に集中する。

「あ、俺だな。」
ジョッキを空けるとおかわりを頼む。

そうか、柴田なんだ。それでちょっと知り合いっぽい雰囲気なのかな。

しかし、柴田はそれ以上語ろうとしない。
井出が「男前の話はきいてますか?」と言うが
「それは何のことかわからないな」で会話は続かない。