ちょう



なんというか、ノリが軽いと思ったのは仕方のないことだと思う。


ということは、彼女の手首にはまだその『痕』が残っているのだろうか。私の耳に、小さな切り傷が残っているのと同じように、彼女の手首にも、傷が。


────『死に、たかったんですか』


訊くのは躊躇った。でも、どうしてもこのひとの考えが知りたいと思った。


私は死ぬのはそれでよかったし、私の世界から偽られた本心が消えるのなら死んだってよかった。流石に自殺はしたことはなかったけれど、聞こえなくなってしまえばいいと思ったから耳たぶの下あたりに傷が残っている。


この人は、どうだったのだろう。


────『うーん……私にもよく分からないんですよね。死にたくなかったから、リスカだったのかもって思います、書いてると思いますが。本当に死にたかったら、もっと確実な手段を選んでるので』


そういえばそうだったな、と思いながら言葉の真意を探る。探るまでもなく、彼女の言葉は本心そのままなのだろうけれど。


────『気付いてほしかった、とか』

────『嗚呼、多分、それです。気付いて、きっと助けて欲しかったんですよね。全部、成人前夜に書いてあると思いますけど。あれ、本当に私の全部を詰め込んだので』


助けて欲しかった、なんて。正反対の行動をとっていたはずだったが。


本当に、答えなんてなかったのだろう。自分でもどうしたらいいのか分からなかったのだろう。そういう気持ちは分かるから、それ以上は踏み込まない。


綺麗ではない、と言った言葉を思い出す。綺麗なひとではない、と。二つの作品を受けて、彼女はそう言った、けれど。


それは違うのではないかと、そう思うのだ。


彼女と話す前の自分なら、違った。綺麗、汚い、そのどちらかだと思っていて、いくら綺麗だと言っても綺麗なだけでは存在しえないと、思っていた。


でも、そうではなくて。本心は、私があれだけ嫌っていた言葉と対応しない本心であっても、


────『綺麗なひとじゃない、って、どうしてそう思うんですか』

────『綺麗じゃないから、かな。周りを利用してやっと生きてるんですよ、私。利用しないと生きていけないから、うん、多分それですね』


本心というものに、綺麗だとか汚いだとかいう区別はないのではないかと、思うのだ。


偽られてしまった本心だって、こうしてネット上に溢れている誰かの本音だって。全部、それぞれの人の思っていること、考えていることで、それ自体が悪いというわけではない。


だって、ただの本音に、ただの本心に。優劣なんて、あるだろうか。