ただの、本音だ。
本音だから、綺麗も汚いも関係ないんだと、初めてそう思った。
────『あの、よみ、ました』
────『嗚呼、反応しにくいですよね、すみません。わざわざ読んでくださってありがとうございます。これ一応「せみしぐれ」って作品と繋がっているので、よかったらそちらも……なんて宣伝ですね』
なんと言ったらいいのか分からない。なんて言えば正解なのか、言葉が思いつかない。
否、言葉なんて求めていないのかも。
提示された関連作品は、最初に私が読んでいたサイトにあった。戻ってページを開いて、一気に読んでしまう。溜め息。言葉が出てこない。こんなにぐちゃぐちゃになったのはいつ以来だろう、そう思いながら、気持ちを落ち着けるためにココアを一口口に含んだ。
凄い、の一言に尽きる。何がとか、どこがとか、そういうのではなくて、とにかく、凄い。
綺麗とか汚いとか、そういうのでしか見ていなかった自分が間違っていたような、そんな気がしてきた。
────『どうして、これを書いたんですか?』
どんな感想を言っても、違うような気がして、感想は言えなかった。それほどまでに、心の深いところに食い込んできた。
言葉って、凄いんだ。こうして人を訳の分からない感情にさせることも出来るんだ。
私がいつも現実の世界で触れている言葉たちは嘘ばかりで、視える本心も汚いもので。綺麗なものなんて何一つなかった、そう、ずっと思っていた。
もしかしたら、違うのかもしれない。
────『最初に書いたのは「せみしぐれ」の方なんですけどね。信じられないかもしれないんですけど、これ、実話なんです。まあ信じてもらえなくていいんですけど。「成人前夜の独り言」は状況そのままですね。私、綺麗なひとじゃないので』
「せみしぐれ」は、実話だと言った。
あれが実話と言われたら、確かに疑ってしまうだろう。私だって何の能力もなかったら笑っていたところだ。けれど。
私の能力を考えたら、そういうことがあったって構わないのではないだろうか。
────『実話、を、書いてるんですね』
精一杯になりながら、何とか一言だけ返事を返す。画面から視線を外して、そっと瞼を閉じた。一度ぐちゃぐちゃにかきまぜられたものは、まだ元には戻らない。
彼女は今、自分のことを綺麗なひとではないと言っていた。確かにきれいではないかもしれないけれど、汚いわけではないと、少し前の私なら言っていた。
でも違う、そうじゃない。
私は今彼女の本心に触れて、綺麗だとか汚いとか考えただろうか。否、考える余裕もなく飲み込まれてしまったけれど。それでも考えなかったと、確信を持って言える。
────『嗚呼、ご本人さんには許可はいただいていますよ。その方のリクエストでお題が蝉時雨、だったので、あれしか思いつかなくて、書いちゃったんですよね』


