そうして次の日のお昼頃、再び携帯のメロディーが響いた。

「はい。」

緊張する私に

「先生、何してる?時間大丈夫?」って

「ねぇ先生。オレの番号も登録しといてね。
誰か分からず不安そうに出たでしょ?」

ってズバリ当てられちゃった。

だってしらないアドレスだもん。

先生は昨日"登録するよ。"とはいったけど…"しても良いよ"とは言わなかったもん。

でも…

登録して良いなんて、嬉しいけど…

やっぱり、甘える訳にはいかないよね!お断りしないと‼

何て言おうって考えていたら

「先生…今日も…一人?」って

「はい。妹も彼氏のところにお泊まりするって言ってたから。」

「あれ?妹さんって…いくつ?
先生が二十歳だから…それより下って…未成年?」

「はい。高校生です。彼氏は大学生だって言ってました。」

「高校生で堂々とお泊まり宣言‼
このお姉ちゃんにその妹って…想像できないね。姉妹逆って言われない?」

そう言って、笑う先生。

実際…二人を知る人は10人が10人…私のことを妹っていうから…間違ってないのかも。

「じゃあ、今日も淋しい?」

少し話しが変わったから…忘れそうになったけど…

お断りするんだよね。

「あっ…先生。あの…やっぱり、先生に迷惑をかけるのは…申し訳なくて…」

「ねぇ先生。先生って何時くらいに寝る?」

あれ?お断りしたのに…伝わらなかった?

「あっ…。えっと…普段は9時くらいに寝ます。」

「えっ!9時⁉
今時、幼稚園児でも…もうちょっと起きてるよねぇ~?」

「今日みたいにみんながいない日は、不安になる前に早く寝るんです。
ここを寝れないと、本を読みながら明け方近くまで起きてる羽目になるから。」

「それでこの間のカラオケ…ぼぅ~っとしてたんだ?
つらかったんだろう?」

「ありがとうございます。」

「うん?」

「あっ…見ててもらったんだって…
勝手に…うぬぼれたこと思って……
すみません…。」

「ううん。見てたよ。
先生のことが気になるからね。
前にも言ったかもしれないけど…先生って…ほっとけないんだよ。
危なっかしくて…。
っていうか…やっぱり…気になるからね。」

「すみません。しっかりしてなくて…。
四人や妹、友達にも妹扱いされるくらい…しっかりしてないから…。」

「確かに、四人が先生を可愛いがってるのは否定しないよ。
オレも主任も…園全体が先生を可愛いがってるかな?
オレなんて、怒るのも褒めるのも…他の先生より多目だしね!
前から言ってるけど…先生はホントに可愛いしみんなに愛されてるよ。」

「でも…ここは職場で…私は教師なのに…。
可愛いってヨシヨシしてもらうのは…」

クスッという笑い声が、携帯の向こうから聞こえる。

「ヨシヨシされてる自覚はあるんだぁ。」

「勿論です‼年長組の先生なんて、子供を指導する時の方が厳しくて。
出来ない子だから、厳しくしても仕方ないって思ってないか…不安なんです。」

「それはないよ。
むしろ、先生はどの先生達より先生に向いてるって思うよ。」

「えっ‼」驚く唯に

「信じれない?」ってクスクス笑ってる。

そりゃ、あれだけ失敗して怒られたら…

お世辞にも向いてるなんて…。

「この間牛乳が苦手な子供がストローで飲んでたよね?
オレがどうして?って聞いたら
臭いで苦手かな?って思って、私も同じだからって。
オレはずっと、頑張れって応援して飲ませてきた。
どうして苦手になったかなんて…考えたこともなかったよ」

「はぁ…??」

些細な日常に向き不向きなヒントが隠れているようには、思わないんだけどね。

「子供の目線に立とうと頑張っている先生達の中
普通に子供の目線で物事を考え、捕らえられる先生って…
凄いと思う。
但し、先生は無自覚だけどね。
これは先生の長所だよ。
他のことは…知識と経験が付いて来たら失敗することなくなるはずだから。」

唯の…長所?…

「長所って…。褒めてもらってますか?」

「そうだね。
先生は、誰よりも子供の心が見えるからね。
まぁ~たまに、大人の会話についてこれないから…びっくりすることがあるけどね!」

?…そうなのかなぁ…?

「人の気持ちを理解するのって…一番苦手だと思っていたんです。
今も…先生の気持ちって言うか…考えが…分からないから…」

「何が分からない?」

「う~ん。
一番苦手だと思ってたんです。人の気持ちを理解するって…
それなのに…先生は分かるって…。
お電話をもらうことも…
みんなが可愛いがってくれる意味も…
よく、分からなくって……」

普段だと絶対言えない話しが言えるのって…

やっぱり、電話のお陰かな?

あれだけ緊張してたのに…

「あれ?緊張が溶けてきた?電話だと大丈夫なのかぁ。」

「えっ‼あれ?もしかして…声に…」

「うん!出てたよ!
先生の気持ちは分かりやすいね!声やヒョウジョウに出るから。」って

ずっと笑う先生。

あ~ん!恥ずかしい~

「たぶん、今みたいなところかな?みんなが可愛いがってるのって。
一生懸命で、ちょっと抜けてて。相手の立場を理解しようと考えて。
先生の優しさが伝わるからだよ。」

「でも…気持ちを理解することは…」

「あれは、子供限定だったね‼
大人の気持ちが分かるにはもう少し時間がいるかな?
友達と関わったり、恋愛したり。
経験を積めば、分かるようになるよ!」

……………………………。

「あれ?納得いかない?」

「いえ…。
ただ…経験が積むのって…難しいなぁって
友達の問題は、今のみんなといたら大丈夫だけど…
恋愛って…元々苦手なのに…経験なんて…」

朋君のことを思い出して落ち込んでいたら…

「先生は、男の子って苦手?」って

「はい。苦手って言うか…怖いって言うか…
大きいし…何を話したら言い方か分からないから…」

「だったらやっぱり電話が良いね!
顔を見ないし、質問したら答てくれるし!
じゃあまた夕方頃かけるね‼」

「あっ…すみません。長話して…。
あの…夕方って…。
………また、暇な時に…」

一日に何度もなんて…先生の迷惑になっちゃう。

「あれ?先生忙しい?それなら明日にするけど。」

「いえ…私はずっと暇ですけど…」

「だったら問題ないね。オレもずっ~と暇だから。
今度は名前を見て、直ぐにオレだと分かるように登録しといてね‼
じゃあまた夕方にね!」って…

昨日と一緒で、パッと切れちゃった。

遠慮がちな唯を思っての作戦、強引に次々予約しようと考えている先生の気持ちは

唯にはやっぱり理解できなかった。