「次のバス停は、"通過"でお願いします…。」

少し緊張の混じる声で運転手さんに伝える。


園児の送迎………。


毎回同じ事の繰り返しなのに…

子供がお休みだったり変更があると、失敗してないか不安になってしまう。

毎日同じ子供をバスに乗せて園に連れて来たり、自宅に送り届けたりする

幼稚園では当たり前の行動。

たまに保護者が直接お迎えに来たり園にお残りしたりで

乗らない子供もいるけど…そういう時は事前にチェックして

バス停を通過するだけなのに…何故か何度も失敗してしまう。




「はぁ~っ
先生~、和香菜ちゃんのお母さんがバス停に立ってるよぅ~」

運転手さんの呆れた声がため息混じりに聞こえてきた。



えっ⁉お母さん?…

ウソ!!和香ちゃん乗ってないのに…

どうしよう~

「あっあの…。どうしよう…乗せ忘れたみたいです…」

オドオドする私に

「ふぅ~っ…。
後で俺が連れて行くから、それまで自宅で待っててもらって…。
しっかりお詫びを言って下さいね…」


…怒られてしまった。



運転手さんの名前は…森 悠人先生。


いつも失敗する私に冷静な言葉と的確な指示を与えてくれる人。

とにかく厳しくて怖い。

パニック気味の私の心がもっとパニックを起こしてしまい

どんどん新しい失敗を生み出してしまうの。


他のバスの先生の時よりも2割増しで失敗してしまうのはそれが原因かも…。

なんて…。

人に責任を押し付けるような考えはダメなんだけどね…。


和香ちゃんのお母さんにしっかりお詫びを言ってバスに乗り込むと…

「先生、反省は全員無事に送り届けてからにしてくださいね。
いらない事を考えてたらまた失敗するよ。
それに、先生よりも和香ちゃんの方が不安で寂しい思いをしてるから。」
ともっともな意見を頂いた。


はぁ~っ…。またやってしまった…。

ミラー越しに見える目に感情が見えないけど…

きっとイライラしているはずだ。


「はい…。すみませんでした。」と小さく答えるのがやっと。

一人、二人と子供が降りていって…

バスの中は先生と二人。



重い沈黙が続いた。