「あと、うんと甘くしてくれたら助かる」


こだわりなのか、注ぐ前からカップに砂糖を入れてほしいと、なんだか甘えたように言われてしまえば、私はそれに従順となる。


……情けない話だけど、格好いい――実は相当好みの顔だと自覚したばかりの――相手の様々な表情を短時間で見せられてしまっては、それを流せるスキルなど持ち合わせてはいなかった。


甘いものが好きなのだろうか。落ち込んだとき、そういうものは必要だ。


席に着いた男の人にカフェオレを運ぶ際、サービスで小さなチョコレートを添える。するとふにゃりと微笑んでくれたものだから、秘密の身勝手な感情が目尻に僅かな水分となって滲んでしまった。


そっと、盗み見る。


ソファに己の全てを委ね、何十分か前に恋人に捨てられたばかりの男の人は、視線をガラス窓にさ迷わせていた。長い足を一度無意識に組んでみたきり、あとは微動だにしない。


知らなければ、ただの寡黙な、見惚れてしまう男の人。けれど私には、ソファに預けた身体の角度さえも、気持ちを堪えているように見えた。


身の程知らずなのは承知だ。なのに、私はその男の人を抱きしめ、慰めてあげたいと思ってしまった。


……なんて身勝手なことか。


失礼なあれこれを飲み込むのは当然で。せめて、独りでいたいだろう時間が可能な限り存続しますようにと、背を向けた。