幕末を駆けた桜



『嬉しそうだな』


『……坂本』



結局、僕との手合わせを忘れたかの様に土方と言い争いを繰り広げる沖田を見ながら、坂本は興味津々とでも言いたげな表情で僕に話しかけてきた。


木刀を肩に置き、手拭いで汗を拭いた坂本は、少し長めだった髪をバッサリと散切り頭にして手合わせをしていたからか和服姿だ。


……何と言うバランスの悪さ。


戦に出る時の服装である軍服は似合っているのに、散切り頭は和服が合わないから勿体無い。


『俺の顔になんかついてるのか?』

『……ん?』



グイッと顔を近づけてきた坂本に、一歩遅れて後ずさり距離をとる。

こいつ、何を考えているか分からないから反応が遅れるんだよ。



『真白が道場に来たって事は、お前明日の戦前線に出るつもりだろ?』


『あーうん、そうだ。

別にいいだろ、いつも事務作業ばかりじゃつまらないんだよ。

近藤さんも桂も鴨さんも、厳しすぎるってか過保護すぎる。

新選組の時は色々好き勝手やってたんだから今もやらせてくれれば良いのに』



つらつらと、いつもは言わない愚痴を坂本に漏らしてしまうのは、まぁ少なからず僕がこの男を信頼している証拠だ。


坂本は坂本で、僕の話を聞いて少し考え込む様な仕草をとる。

『俺も、お前が前線に出るのは反対だ』


『……お前も敵か。坂本』