幕末を駆けた桜




『そういう事を言ってるわけじゃないんだけどな…』


呆れたようにそう言った山崎さんは、よしっと僕の脇腹を軽く叩いて口角を上げた。


『俺が見る限り、副長はお前の事信頼してるから安心しろ。

俺は観察方だ。これでも人間観察は得意分野だからな』



分かったらさっさと稽古に戻れ、と僕に背を向けた山崎さんの後ろ姿を見て、思わず笑みがこぼれる。


励ましてくれたんだよな、今のは。

この人も大概変なやつだな。



『あ、それと。俺の事は丞でいいから』


『僕も真白でいい。じゃあ、また怪我したら手当よろしくな、丞』



返事を聞かずそれだけ言い残して部屋を後にする。

あー…嫌な事だけじゃなくて良かった。

これで何とか持ち堪えられる気がする。



にしても……。


『土方が僕の心配なんてするのか…?』

『俺が何だって?』



ボソッと呟いたはずの1人言を拾われていたらしく、聞き覚えのある声が後ろから聞こえてきた。


ギギッ…と、ロボットのようにゆっくりと振り返ると、眉間にシワを寄せた土方が僕を見下ろしていた。