『真白君…!』



真白君を担いで逃げた奴らを追うように下を見るも、下は暗闇で視界が届かない。



『……くそっ…』



固く拳を握りしめて唇を強く噛む。

あの吉田稔麿とか言う剣士との戦いを早く切り上げてたらこんな事にはなっていなかった。


真白君が、連れ去られる事なんてなかった。



『早く…見つけないと!』



…こんな事、してる場合じゃ無い。



下からの金属音や叫び声が消えている事にも気づかず、慌てて転げ落ちるように階段を駆け下りる。


早く…早く!



慌てて池田屋を出ようとした直前、誰かに強く腕を引かれて立ち止まった。


『離せ…!』


誰かも確認せずに、腕を振り解こうと体をひねる。



『おい、総司!』



そんな行動も、自分を呼ぶ土方さんの声に止められ、やっと人を確認するために後ろを振り返った。



『あんただったんですか、土方さん。

いいから、離してください』



多分、いつもより格段に冷たい声だったと思う。


自分でもそう思うのだから、土方さんもそう感じたはずだ。



『どうかしたのか。

それと…真白はどうした?
お前と一緒に二階に行ったと平助から聞いたが』



土方さんの言葉に、さっきの光景が思い出される。


真白君…。



思い出して、また強く拳を握り締める。


それを見て、多分土方さんは察したんだろう。
腕を掴んでいた手を離した。