幕末を駆けた桜




知らない男の腕の中に収まり、後ろから口を塞がれた僕は、逃れるために体を捻るも、男の力に敵うことはなく。


男の言葉の通り、大人しく静かに気配を消す。



『全く……どこ行ったんでしょうか。

まぁ、なんにしろ。
面白い人を見つけましたね』



近くでさっきの男の声が聞こえて、思わず息を飲みこむ。

それにしても、なんてこと呟いてるんだよこの男は。

これはもう、完全に目をつけられてしまった。

男が去っていく足音を聞きながら、溜息をつく。


『……お前、何かしたのか』


そんな僕を腕から解放し、手を離してくれた男の言葉に、首を傾げてみせる。

なんたって、僕は身に覚えが無いからね。

『知らないか。

お前、名前は』


少しだけ口角を上げた男がそう聞いてきたことに、こめかみにピクリと動く。


名前を聞く時は、普通自分から名乗るのが礼儀のはずだろ。


なんだよ、この無礼男は。


『お前から名乗れ』