「宮西、宮西」

教室の後ろの扉のほうから、小声で私を呼ぶ声が聞こえて振り返る。
 

「アラケン、久しぶりだね」

アラケンこと荒谷健太郎(あらやけんたろう)とは幼稚園時代からの付き合いで、いわゆる幼馴染というやつだ。


「宮西でも浦東でもどっちでもいいんだけど、理科の教科書貸してくんない?」

「えー、汚さないでよ」とか言いながら、教室のドアの側で待つアラケンに向かって歩きだす。


なぜか私達の学校は同じ学年であっても、他のクラスの教室に入ることは禁止されているんだ。

だからアラケンも廊下に近い私に声をかけたのだろう。