化粧をしたままということに気が付き、寝ている彼を起こさないようにこっそり洗面所に向かった。

洗顔をして、歯を磨いてから再び寝室に戻る。

酒のせいで大樹はいつもよりも大きないびきをかいていた。


こうして彼の寝顔を見ていると、私達が別れたということが嘘みたいに思える。


「好きだよ、大樹」


もう一度小さくつぶやいて、軽く汗ばんだ彼の髪の毛を撫でた。

その瞬間に寝返りを打った大樹は、まるで私を拒否するように背中を向ける。


抱きしめるときも、身体を重ねるときも、いつだって大樹は私を優しく包んでくれる。

しかし、いくら優しくされてもそれは上辺だけであって、彼は私に対しては中身のないハリボテだということを忘れてはいけない。


私の気持ちを弾き返したその大きな背中を見ると、忘れかけていたその事実を思い知らされることになるのだ。