「俺の名前、呼んでほしいんだ。一度だけでいい」


私は今まで、心の中でも彼の下の名前を呼ぶことができなかった。だけど今なら呼べる気がする。


「……比呂」


私がまだヒロのことを好きだったとき、大嶋はどんな思いで、私の口からその名を呼ぶのを聞いていたんだろう。


「……サンキュ。じゃあ俺行くね。ほんと、今の気にしないでいいからさ。

……また、明日な」


「……うん、また明日ね」


去って行く大嶋の背中がだんだんと小さくなっていく。

私は、彼に想いを告げることができなかった……