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『今日から配属されることになりました
河野恭一コウノキョウイチと申します!宜しくお願いします!』


マーケティング部部長室に挨拶をし一礼をする俺。


俺はあの後なんとかお手洗いを探しだし
持っていたストック用のワイシャツに着替えついでに乱れていた髪を整え無事に今に至る。


マーケティング部の部長は
営業部の部長と違い
スレンダーな身体つきで
噂では歳も40程度と聞いていたわりには
若々しい見た目の人だ。

仕事のできる上司。

まさにこの部長からはそういった物が見た目からして伝わってくる。


これは出世は難しそうでも遣り甲斐はあるかもしれない。

人事異動には不本意だが
曇っていた気持ちが少しは晴れる気がした。


『河野君。営業では随分と業績を上げていたそうだね』


そう言い笑顔を向ける新たな上司は
部下に偉そうでもなく
さっさそこのソファーにかけなさいと言い
自分もそこにかけ俺がかけるのを待つとこう切り出しだ。



『申し訳ないんだが人事異動!』


『はっ?』


はぁああああ?!


驚く俺についさっきまで俺の上司だった新たなる部長さんは困り顔で


『君、いいと思って引き抜いたのに惜しいよ...でもさっき社長のご命令で秘書課に移って貰うから』


『えっ?俺が秘書課ですか!?だって秘書課は!』


秘書課は女性社員だけなはず。


『うーん、あまり言えない事だけどね
こうも振り回してしまったから君にはちゃんと伝えておくね。嫌でも知ることになるはずだから』



そして、『実はね...』そう切り出され教えられた事実に驚きながらも

俺は秘書課の前にいる。


『はぁはぁ』


秘書課は最上階にある。
つまり、俺はまた長い階段を上らされた訳だ!!


『ちきしょうっ』


こうも振り回されるのなら
まだあのやる気のない部長の下で働いてた方がマシじゃないかっ
と先程思ったことが再び怒りと変わり再熱する。



そして、
俺は荒々しく開けた秘書課の扉の向こうの社長室に向けて足を運ぶ。


再び頬をつたって流れる汗など気にしない。

ワイシャツはさっきのストックで最後。

この際この見た目を託して
社長に秘書課の異動を取り消ししてもらう。

下手したらクビ覚悟だが
こうも振り回されちゃ黙っていられない。


そう息巻いていた俺は
まさかこの時
この社長の扉を開けるまで
俺の人生がガラリと変わることになろうとは思いもしなかった。