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『んっしょっ‼』


段ボール一杯に詰められた重たい荷物を抱え
俺は新しく異動する部署へ向かうため階段一段一段を上っていく。


配属先は、5階にあるマーケティング部。

つい先日までは営業部にいて外回りやら他社のお偉いさんと取引などしていた俺にとってその異動の知らせは飛んだ知らせだった。




遡る程一週間前。

上司に

『この取引が成功すれば
営業部嘗てならないほどの成功だ!』


といつもの決まり文句を言われ
真夏の炎天下の中送り出された俺。


『あーやれやれ部長のあの決まり文句も今時言える台詞じゃねぇよなー』


あーあー
かったるいと持ってた大事な資料を団扇がわりに扇ぐ。



『まぁ確かに毎回毎回同じような台詞吐いては、取ってきた部下の業績を自分の物にするんですからね、やってらんないスッよね』


そう俺に同調して
同じく持っていたタオルを団扇がわりに扇ぐのは一緒に同行していた部下だ。


『まっ、あの老いぼれもあと2年もすりゃぁ定年退職。そうしたら俺の昇格も夢ではないだろうよ』


そっ
部長はあと2年もすれば定年退職。

俺からすりゃぁ
定年間近だってのに業績業績言って
部下の業績を横取りまでして
未だに地位に拘る部長の考えがわからねー

おかげさまでこんな奴の下で働いてる俺ら部下はまともに昇進できやしない。

どんなに業績を上げても
業績は全て奴の物。


まっ
成り行きで入った会社。

特に思い入れがあるわけでもないが
まぁ毎回毎回こうも働いて勝ち取った物を
何もしない中年太りの親父に横取りされるのはさすがに堪に触る。

プライベートも泣かず飛ばずの俺にとって
歳も歳だ。

これだけ仕事してるんだ。


さすがに仕事で評価されてもいいものだと思い始めた。

つまり出世が惜しくなったのだ。



そんな俺を見て部下は


『先輩なら上を狙えます!早く先輩の元で働きたいッス』


なんて言ってたが
俺の元で働いてんのは今も同じだろ
思わず喉まで出掛けた言葉は
部下の社交辞令の言葉に気分がいいと思ってしまった自分がいたから止めた。

手にしたいものが目前まで迫ると
普段なら気にしない事までもが
優越感に感じる。


俺も人間なんだと思った。










だが、
そんな気持ちの良いものは突然終わる。