I line xx

スタッフに案内されて


暗い舞台への通路を一列に並んで歩く


前を歩いていたピアノマンが


途中で俺に話かけてきた


「実は今夜は俺の彼女も


観に来てるんだ。」


そう言って彼はこれまで見た事もない


素敵な笑顔を俺に見せた


メンバー全員とは仕事以外での付き合いは


今まで全くなかった


時間になると集まり


セッションをする


時間が来ると解散


そういう関係だった


「今回の曲、実は彼女の為を思って


何時も演奏しているんだ。」


そう言ってにやりと笑う


「何故かいつも演奏していると


彼女の事ばかり思い出して


しまうんだ。」


俺もそうだよ


この曲を演奏している時


いつも愛果を思い出してしまうんだ


君には絶対言えないけど


「彼女にはこのことは言ってない


何だか言えなくて。」


そう言って彼は笑った


三十歳になったばかりの彼は


バンドの方向性を決める上で


メンバーのなかでも大切な存在だった


迷った時、彼の紡ぎ出すちょっとした


フレーズに皆が乗っかっていくなんてことが


何度もあった


そんな皆に信頼されてる大切な存在


それが彼だった