「僕が、さっき手に血をつけて来たりしたこと、忘れてくれないか?」 「忘れる?それどういう意味?」 「どういう意味もくそもない。文字通りに忘れるんだ。つまり、くるみは何も見なかったことにするわけだよ。それから、僕が八時ごろからここに来て酒を飲んでいたことにしてくれると、なおありがたいんだが……」 信二は、煙草の箱をポケットから出し、それを指先で潰しながら話していた。眼は、自分の指先を見ているため、くるみが表情をうかがうことはできない。