「暇なら練習に付き合ってよ、恋のさ」



恋の練習だとか、馬鹿な事を言い出したのは私の方だった。
偶々同じ部活で、偶然その場に居合わせただけの後輩に。



だから、好きとかそんな感情は無かった。
それどころか顔を見た事ある程度で名前も知らなかったし。



本当に好きな人が出来た時の練習台とか言って



でも、その後輩はそんな提案に乗った。



「良いですよ。」



裏があるのかと思う位良い笑顔で。



「それじゃ、偽恋人って事でいいよね。皆には隠して。
それで…ねえ、名前は?」



「はい…ってはあ?知らなかったんですか。…木下。木下倉ですよ。」



後輩はさっきの返事とは全く違った様子で呆れ顔を浮かべて言った。



「私はね、まき「温先輩。槙乃温先輩でしょ?」何で分かるの?」



私の方は知らなかったし、名乗った覚えもなかったから。
知っててびっくりした。



「…さぁね?」



今度はにこりと怪しく微笑んで答えて、その後は何処かへ消える。
私は倉の事が謎で仕方なかった。



自分から言い出したとはいえ、OKを貰えると思ってはいなかったし。
名前も知っていたし。



「何だあいつ…何だあいつ…」



「あー、温ちゃんもお疲れ様!」



ぼそぼそ呟きながら教室に戻ると姫桜が待っててくれていた。



「テニス部も疲れたよー…ねね、そっちはどう?」



「木下倉君と付き合う事になった。」



教室には誰も居なかったから取り敢えず姫桜に知らせる。



「ええ!?温ちゃんに恋人!?」



それはもう凄く驚いてて。



「何か寂しいなぁ…木下君って誰だろう…。
分からないなぁ…。でも、温ちゃんおめでとう!」



偽なんだけどね。
ずっと親友の姫桜に隠し事は初めてだけど、大丈夫かな?



「っはは。ありがとう。…じゃあ、帰る?」



「うん!」



その日は、結局、付き合う事が決まった。
本当に良いのか分からないし、半ば無理矢理な気がしたけど…



これから上手くやれると良いけど。